副腎疲労症候群を鍼灸治療で治す。
目次
はじめに
当院にも副腎疲労症候群と診断された方やその疑いのある方が来院するケースが増えてきています。中にはうつ病という診断を受けたあとに実は副腎疲労だったという方も珍しくありません。たしかにうつ病と副腎疲労症候群の症状は非常に似ているため誤診が起きてしまう可能性もあるのではないかと思います。
現代の医学教育の現場では腎臓の病気と言えば、クッシング症候群やアジソン病などが優先度が高く教えられています。しかしこのストレス社会においては副腎疲労症候群の方が潜在的なものも含めて圧倒的に多いにも関わらず現代の医学教育で教わることは稀なのです。
実際に当院に来院された優秀な医学生でも副腎疲労症候群を知りませんでした。
副腎疲労症候群(アドレナルファティーグ)が日本や世界で知られるようになったはもここ10年ぐらいのことではないでしょうか?
ただ後述するように東洋医学・中医学の世界では「腎虚」という病症が副腎疲労症候群と酷似しています。そして腎虚という状態は東洋医学の中では最もポビュラーなもので、現代では特に高頻度でみられる状態です。そして副腎疲労症候群と同じく基本的な原因は働きすぎであったり、過度のストレスで起きると2000年近く前の東洋医学の古典には記されています。
つまり現代で言う副腎疲労症候群は鍼灸の治療対象となるものだと考えていますし、実際に副腎疲労と診断された方を鍼灸で治療することで劇的な改善をしている方も多くいます。
ちなみに副腎疲労症候群の副腎とは近年、アンチエイジングを司る重要な臓器としての共通認識が医療関係者の間で広がってきています。つまり副腎を正常な状態に保つことが健康で若々しい心身を保つ秘訣だということなのです。東洋医学的にも「腎は生命の根源」と表現され腎の衰えとは老化であるという定義が古くからなされているのです。東洋医学や中医学を勉強して者にとっては腎の不調=老化というのは基本中の基本と言っても過言ではありません。それほど東洋医学の中でも腎の位置づけというは重要なものなのです。
副腎とは何か?
副腎とは腎臓の上に位置する非常に小さな臓器(腺)です。副腎は皮質(表面)と髄質(中身)から構成されていて、全く違うホルモンを産生しています。皮質と髄質は一体になっていますが似て非なるものなのです。ここでは主に皮質についてお話します。機能としては人間になんらかのストレスがかかったときにホルモンを放出して身体全体がストレスにうまく対応できるようにすることです。このことから副腎から放出されるホルモンはストレスホルモンなどと呼ばれることもあります。肉体的、精神的、生理的ストレス(外傷、手術、不安、低血糖など)で分泌が顕著になります。
副腎皮質からはいくつかのホルモンが産生されていますが中でも「コルチゾール」というホルモンが副腎疲労に関してはキーになるホルモンです。
コチルゾールの働きは、抗炎症作用(免疫抑制)、血液循環機能向上、エネルギー代謝向上、中枢神経の興奮性向上、などです。
わかりやすい例をあげるとアトピーなどの患者さんにステロイドを塗布すると炎症が劇的に抑えられますね。ステロイドと呼ばれている薬が「副腎皮質ホルモン(コルチゾール)」だからです。だから炎症が抑えられているのです。もちろん外部からステロイドを塗布し続けると体内でコルチゾールが産生されなくなってしまうので炎症が激しくなってもどってきます。
副腎疲労症候群の症状・チェックリスト
下記のような症状や状態が多くみられる方は、副腎疲労症候群の可能性があると思います。ただ読んでいただくとわかると思うのですが、一般の方でも同じような症状を呈する病気が思いつくと思います。例えば、うつ病、自律神経失調症、慢性疲労症候群などですが、西洋医学的にはその鑑別が非常に難しいと思いますが、東洋医学ではそれぞれの病気を分けずにそのまま治療していくことも多くあります。
・慢性的に眠く、眠っても疲労が解消されない
・朝起きるのがつらい
・午後2〜4時ぐらいの間に特に疲れを感じる。
・カフェインを含む飲み物がないと目が覚めない。やる気が出ない。
・アレルギー症状が悪化している。
・鼻炎、喘息が悪化した。
・塩分や糖分の濃いものを無性に欲する。
・毎日お酒を飲まずにはいられない。
・体重が増加し、特にお腹回りやお尻に脂肪がついてきた。
・抜け毛が多くなり、髪の毛が薄くなってきている。
・風邪を引くと治りにくく、関が数週間続くこともある。
・慢性的な便秘に悩んでいる。
・冷え性である。
・腕や顔にシミが出てきた。
・関節が痛む。
・くるぶしがむくみやすい。特に夕方にむくみがひどくなる。
・PMS(月経前症候群)や更年期障害がひどくなった。
・座った状態や横になった状態から急に立ち上がると立ちくらみやめまいがする。
・午後11時過ぎに元気になる。
・眠りについても3時間ぐらいで目覚めてしまい、その後なかなか眠れない。
・疲れているのに寝つきが悪い。
・ちょっとしたことでイライラしてヒステリーを起こすことがある。
・プレッシャーをかけられると思考が混乱する。
・集中力がなくなり、記憶力が悪くなった。物忘れがひどい。
・何もかもが嫌になることがある。
・気分が落ち込みやすい。
(出典:『医者も知らないアドレナル・ファティーグ』ジェームス・L・ウィルソン)
副腎疲労症候群の原因
副腎疲労症候群の原因はなんでしょうか?
既に述べた通り副腎の機能は「身体がストレスに対抗できるようにするためのホルモンを産生、放出すること」でした。つまり恒常的にストレスがかかることで副腎が疲労し働かなくなってしまうのです。
ストレスが何であるか?は既に自律神経失調症の記事でご説明させていただきました。おさらいまでに簡単に説明させていただきますと、ストレスは大きくわけて次の3種類がありました。
・身体的ストレス(身体内部的)
病気、ケガ、睡眠不足、栄養不足、不規則な生活、仕事・部活・勉強などの過労
・環境的ストレス(身体外部的)
騒音、公害、災害、照明、空気汚染、細菌・ウィルス感染、温熱、寒冷、湿度、高気圧、低気圧
・精神的ストレス
人生のライフイベント(入学、就職、退職、結婚、離婚)などによる変化、仕事や学校での人間関係のストレス
ただ、どんな動物にでもストレスはかかるはずなのに人間だけがなぜ副腎疲労症候群などにかかってしまうのしょうか?
それは人間の身体自体は狩猟採集時代からさほど進化していないのに、外部環境は狩猟採集時代とは全く違ったものになってしまったからなのです。このことは歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』の中にも記されています。
例えば狩猟採集時代の大きなストレスは外敵との遭遇が挙げられますが、逃げるか戦って勝つか負けるかすればストレス自体はなくなります。しかし現代は違います。家庭、通勤、職場など毎日、恒常的に発生するストレスを人間は受け続けています。だから副腎が疲れてしますのです。
特に日本のような価値観や考えへの無言の同調圧力がある国では毎日無意識にストレスにさらされているのです。
副腎疲労症候群の鍼灸治療
今までに多くの副腎疲労症候群の患者さんを治療してきました。
先に説明したとおり副腎疲労症候群は東洋医学で言うところの「腎虚」の病症であることは間違いないと思います。そして腎虚の状態こそ東洋医学が得意とするところです。
治療としては鍼と灸の療法を使って、東洋医学、西洋医学双方の観点から治療していきます。
まず東洋医学的には「補腎」と言って副腎の機能を高めるツボへの鍼及び灸の治療をすることになります。これはどんな患者さんにでも共通して治療するツボになります。具体的には足の内くるぶし近くの太渓、腰部の腎臓の裏にある腎兪、心室、命門です。特に命門は非常にパワーのあるツボで古典では「命門の火」と表現されることもあります。
また一言で副腎疲労と言っても患者さん個々で問題となるツボに違いがあるため上記のような共通穴以外にその方のバランスの崩し方に対して適切なツボを取り治療していきます。
次に現代医学的には背部の筋緊張部位に鍼治療を施すことで少しでも余計な身体的ストレスを除去していきます。
また最近多い例として副腎疲労症候群で慢性上咽頭炎を併発している患者さんです。これはどういうことかというと副腎が疲労してしまう原因が単純にストレスだけでなく上咽頭の炎症にあるのです。先にご説明したように副腎で産生されるホルモンのコルチゾールは炎症を抑える作用があるため身体に炎症がある場合は放出され続けることになります。つまり慢性上咽頭炎が続くことでコルチゾールが大量に要求されることになり副腎が疲労してしまうのです。
当院では慢性上咽頭炎の治療にも自信を持っています。慢性上咽頭炎を治すことで余計な負荷を副腎にかけないのです。腎の機能を補うとともに、このように腎が疲れさせる根本の理由にアプローチすることで余分にコルチゾール消費を抑え、なおかつ腎の機能を補うのです。
関連記事:慢性上咽頭炎を治す、慢性上咽頭炎(藤沢・53歳・女性)
治るまでの期間に違いはありますが多くの患者さんはこの治療で改善していくことが多いのです。ただ患者さんは健康的な方に比べて活力が不足しているため強い刺激は適しません。そのため鍼の太さや鍼を置く時間は適切でなければなりません。そのあたりは鍼灸師の技術次第としか言えません。多くの患者さんが腕が良くなおかつ副腎疲労症候群の臨床経験のある鍼灸師に出会えることを願います。
副腎疲労とビタミンC
副腎疲労が疑われる方はぜひビタミンCを毎日飲んでみてください。
そもそも人体の中で副腎と下垂体には最もビタミンCが備蓄されています。ストレスにさらされて副腎からホルモンが放出されるとビタミンCの濃度が急激に低下することがわかっています。つまり十分な副腎ホルモンを放出するためにはビタミンCが必要だということになります。
たしかに本来は食物からビタミンCを接種することが理想なのですが、現代はストレスの量が人間の許容を超えていること、そして近頃の野菜や果物には昔のようにビタミンCが豊富に含まれていない、という2つの理由からサプリメントなどで接種することが望ましいと私は考えています。
どんなビタミンCのサプリメントが良いのか議論がありますが、まずは薬局などで売っている市販のもので良いかと思います。上咽頭炎や副腎疲労の方は毎日2回ぐらいに分けて合計1500mg程度は取ったほうが良いのでないかと考えています。