なぜ慢性痛に抗うつ薬、抗てんかん薬が処方されるのか?

当院では毎日のように何らかの痛みを持つ患者さんがご来院されます。

それは肩こりや腰痛などの慢性疼痛から線維筋痛症のような強烈な痛みを伴う疾患まで本当にさまざまです。そして多くの患者さんは病院にも通っているケースが多いため何らかのお薬をほぼ必ず処方されています。中にはもらった鎮痛薬をなるべく飲みたくないため鍼灸の鎮痛効果を求めてご来院される方もおられます。

そんな中で患者さんからたまにご質問をいただくことがあります。

「なぜ私はうつ病やてんかんでもないのに、抗うつ薬や抗てんかん薬を処方されるのですか?」というものです。

抗うつ薬が処方される理由

抗うつ薬には第一から第五世代までのカテゴリーがあり、とくに第四世代のSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)が処方されていることが多いと思います。

サインバルタ(デュロキセチン)、トレドミン(ミルナシプラン)などを服用されている方も多いのではないでしょうか?

たしかに抑うつ状態でもなにのに何の説明もなくこれらの薬が処方されたら患者さんとしては、自分はもしかしてうつ病なのか?と不安になると思います。

まず大前提として痛みは脳で感じています。

たとえば腰痛は腰から慢性痛を伝える神経繊維によって背骨の中の脊髄に到達し、そこから脳へと痛みの情報を伝えて最後は大脳皮質で初めて痛みとして知覚します。

ここでもう一つ人間には不思議な機能があります。

痛みを下から上(脳)へと伝える伝える機能とは別に上(脳)から下に痛みを抑制する機能があるのです。(下降性痛覚抑制系)

痛みを感じながらも、感じすぎないようにしようとするシステムが存在することで、アラームとしての痛みというものがほどよく機能するようになっているのです。

そしてその下降性痛覚抑制系という人間に備わった鎮痛機構はセロトニンとノルアドレナリンという二つの神経伝達物質によって機能するものなのです。つまり例えば何らかの原因でセロトニンとノルアドレナリンが脳内で減少しているような場合には、その物質を増やすことができれば鎮痛機構が発揮されて痛みがおさまるという理屈なのです。

そしてその二つの物質を増やすことができるのが第四世代の抗うつ薬であるSNRIというグループの薬になるのです。

逆に言えばうつ病というのはセロトニン、ノルアドレナリンが減少している場合が多いので脳内の鎮痛機構が働かず慢性痛を合併することも多いということなのです。

抗てんかん薬が処方される理由

線維筋痛症や慢性広範痛症などの患者さんでリボトリール(クロナゼパム)、ガバペン(ガバペンチン)、イーケプラ(レベチラセタム)などの抗てんかん薬を処方されたことがある方も多いのではないでしょうか?

まずそもそもてんかんとはどんな病態なのでしょうか?

てんかんというと失神して気を失うような病気というイメージが強いと思います。

まず脳内では興奮(グルタミン酸神経系)と抑制(GABA神経系)という相反する機能がシーソーのように常に働いてバランスをとっています。どちらかに行き過ぎてしまうことで人間の運動や感覚が振り切れるほど異常に機能してしまったり、逆に全く機能しなくなってしまったりしないように調整されているのです。

てんかんというのは何らかの理由によって脳の興奮シグナルが異常に働きすぎてしまう状態だと言えます。つまり抗てんかん薬というのは脳の異常な興奮を抑えるためのものです。

一方で慢性的に激しい痛みを感じる方の中には脳の興奮シグナルが働きすぎることによって痛みを普通以上に感じてる方もいるのです。

だから脳の過剰興奮(痛み)を抑えるために抗てんかん薬を使っているのです。