北京同仁堂中医医院

後頭部への鍼施術について

当院では、首の後ろの奥にある「後頭下筋群(こうとうかきんぐん)」という筋肉に鍼をすることがあります。
この筋肉を緩めると、多くの方が

  • 「目の奥の重さがスッと取れた」
  • 「視界が明るく感じる」
  • 「目が開けやすい」
  • 「頭がすっきりして軽くなった」(ブレインフォグの改善)

といった変化を感じることがあります。
後頭部への鍼治療がそれらの効果を発揮する理由を、専門的な用語を交えて説明していきたいと思います。

後頭下筋群の鍼刺激によって視覚や脳の感覚が変化する理由

後頭下筋群(大後頭直筋、小後頭直筋、上頭斜筋、下頭斜筋)は、頭蓋と上位頚椎(C1〜C2)をつなぐ深層筋群であり、頭位の微調整や眼球運動とも連動している高度に機能的な筋群です。
この筋群に鍼刺激を加えて緊張を緩めた際、多くの人が「眼の奥が軽くなる」「目が開きやすい」「視界が明るく感じる」「脳がすっきりする」といった主観的な変化を訴える背景には、主に以下の4つの生理学的・神経学的メカニズムが関与しています。

①三叉神経脊髄路核を介した求心性入力の統合と視覚への投射
後頭下筋群の周囲を走行する大後頭神経(C2由来)は、後頭部の皮膚感覚を支配しますが、その求心性入力は三叉神経脊髄路核で統合されます。
この核は、眼窩周囲や前頭部を支配する三叉神経(V1領域)と共通の神経ルートを持つため、後頭部の過緊張による入力が眼の奥の不快感として知覚される(いわゆる「投射痛」)ことがあります。

鍼刺激により筋緊張と神経過活動が緩和されることで、この投射痛が解消され、眼の奥の圧迫感が軽減するのです。

②頭蓋底周囲の静脈・リンパ還流の改善
後頭下筋群の過緊張は、後頭部・頭蓋底に分布する静脈洞やリンパ管の還流を機械的に妨げる要因となります。

特に、頭蓋周囲には脳脊髄液の再吸収経路や静脈還流経路が集中しており、この流れが滞ると、脳圧亢進感・眼底部のうっ血・頭重感を引き起こすことがあります。

鍼で筋緊張が緩むと、頭蓋周囲の液体循環が改善し、眼底のうっ血が取れ、「視界が明るく感じる」ような変化が起こると考えられます。

③頚眼反射(cervico-ocular reflex)による眼球運動系への影響
後頭下筋群は、頭部の姿勢制御とともに、眼球の安定化(視線保持)と協調的に働くとされます。

この頚眼反射は、眼球運動と頚部筋活動の連携によって、視線の安定性を保つ生理機構であり、頚部の異常緊張は視線運動や焦点調節にも悪影響を及ぼす可能性があります。

鍼刺激によって筋活動のバランスが整うことで、眼球運動の余計な緊張が解放され、焦点の合いやすさや視覚のクリアさが向上するという現象が生じるのです。

④ 交感神経緊張の緩和と自律神経バランスの是正
後頭下筋群の慢性的な緊張は、交感神経系の持続的興奮状態を誘発しやすく、これが瞳孔散大・眼球内血流の低下・涙液分泌の低下などにつながり、結果として眼の疲労感や乾燥感を引き起こ
します。

鍼刺激には中枢性の鎮静効果があり、副交感神経優位への移行を促します。これにより、視覚器官のリラックスや脳のクリア感といった主観的変化が現れやすくなります。

【まとめ】
後頭下筋群への鍼刺激が「眼が楽になる」「視界が明るい」「脳がすっきり」といった感覚的変化をもたらすのは、
単なる局所の筋弛緩効果にとどまらず、神経系の統合的な反応・循環系の改善・感覚投射の緩和など、全身性の生理的ネットワークが関与しているためです。