なぜ針治療にはマッサージや整体よりも根本的なリラックス効果があるのでしょうか?
リラクゼーションとは何か?
そもそも心身がリラックスしていない状態というのはどういうことなのでしょうか?
リラックスしていない状態というのは脳と身体の中継地点を通る「情報量(インパルス)」が活発になっている状態なのです。身体の全ての出来事は電気信号になって脳に伝えられたり、逆に脳から末端に伝えられることで生命活動を維持しています。この交通量が増えれば増えるほど覚醒している(目覚めている)状態であり、この交通量が少なければリラックスしている状態だと言うことができるのです。この中継地点の名前を脳幹網様体(のうかんもうようたい)と言います。脳(中脳・橋・延髄)内部にある脳神経核や神経繊維がネットワークを形成している部分で、人の「覚醒状態」を決める重要な部分になります。
脳幹網様体を通過する情報量が多ければ興奮し活発に適した状態となり、少なければ睡眠や休息に適した状態だと言えます。本来はどちらが良い悪いの問題ではなくほどよくバランスを保っていればいいだけのことなのです。ただ現代社会は様々な情報やモノがあふれていてシンプルに生きにくくなっています。外界からの刺激がめまぐるしく入ってくるのです。
一方で社会的に複雑になれば人間関係を中心に社会との関係の中で考え、選択し、悩むことも多くあります。
また何らかの原因で心が緊張した状態になると身体の筋肉も緊張します。この筋肉の緊張状態も末端から中枢である脳幹網様体に到達し、リラクゼーションを阻む大きな原因になるのです。
まとめると人は脳で感じたり考えたりすることや手足や体幹などの緊張状態が脳を覚醒状態にして身体が休息することを妨げていると言えると思います。
ここで重要なことは「痛み」の刺激ではなく「緊張」という刺激を脳はストレスだと感じていることです。そしてほとんどの人は「緊張」を「痛み」ほど意識できていません。
身体のどこが緊張しやすいのか?
身体の緊張は痛みとして脳で感じていなくても、緊張している状態の電気信号を脳幹網様体を介して脳に送っています。身体に緊張している場所が多くて、緊張度が強ければ強いほどリラクゼーションからは遠い状況だと言えると思います。
では実際に緊張しやすい筋肉とはどこなのでしょうか?
それは下図にある抗重力筋群と言われる筋肉のグループです。とくに背中側の抗重力筋です。
これらの筋肉は無意識に姿勢を維持している筋肉なので、無意識的・無自覚的に筋緊張を増幅させていきます。
つまりこれらの無意識的に緊張していまう筋肉を緩めて緊張しているという信号を脳に送らないようにすれば人はリラクゼーション状態にあると言えるのです。
それをするための最も適した手段が鍼治療というわけです。
鍼灸でどのようにリラクゼーションさせるのか?
今までの内容を整理するとこういうことになります。リラクゼーションとは筋肉の緊張を緩和することで、脳への緊張による情報伝達減らすことです。
ではなぜマッサージや整体、鍼灸、指圧などいろいろな治療手段がある中で、鍼灸治療にリラクゼーション効果が顕著なのでしょうか?針というといかにも痛そうでリラックスできなそうなイメージがあるかもしれません。
でも実際には違います。様々な手技療法がある中で針治療だけは全く違うプロセスで筋肉を根本から緩めてくれるのです。これは生理学的な事実です。
「軸索反射」というプロセスを使って筋肉を緩めます。
まず針が緊張している筋肉に刺さることで「サブスタンスP」や「CGRP」といった神経伝達物質が放出されます。そしてその神経伝達物質にはその緊張した筋肉の中にある血管を拡張させる効果があります。血管が拡張することで血流が大幅に増すわけです。それによって筋肉は酸欠状態から開放され本来の状態に戻るのです。また血流が増えたことで痛みを発生させていた物質(ブラジキニン、ヒスタミンなど)が洗い流されることで痛みも引いていくわけです。
マッサージや整体などは確かに気持ちよさがありますが、神経伝達物質レベルで身体を根本からリラックスさせるほどの効果がないのです。だからマッサージをしても数日すると緊張が戻ってきてしますのです。