北京同仁堂中医医院を訪れた和へい堂院長 西村太一(はり師・きゅう師)
院長 西村 太一

この記事の執筆・監修

院長 西村 太一

はり師・きゅう師(国家資格)

難治性疾患を中心に、お一人おひとりの体質に合わせた鍼灸治療を行っています。

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こんなお悩みはありませんか

  • 薬を飲み続けているのに、血便や下痢がなかなか落ち着かない
  • ステロイドや生物学的製剤に頼り続けることに、漠然とした不安がある
  • 寛解と再燃を繰り返し、「またいつ悪化するか」という心配が常に頭から離れない
  • 外出先でトイレの場所が気になり、行動範囲が狭くなってしまった
  • 疲れやすさや気分の落ち込みで、仕事にも生活にも集中しきれない

潰瘍性大腸炎は、症状そのものの辛さに加えて、「いつ再燃するか分からない」という先の見えない不安が、心と体を少しずつ削っていく病気です。デリケートな症状だけに周囲には相談しづらく、一人で抱え込んでしまう方も少なくありません。

当院ではこれまで、様々な難治性疾患の患者さんと向き合ってきました。その中でも潰瘍性大腸炎は、鍼灸によって比較的安定して変化を感じていただけている疾患のひとつです。標準的な薬物療法を続けながらも「もう一歩、体質そのものから整えていきたい」と考える方が、多く来院されています。

鍼灸は、自律神経や免疫のバランス、そしてストレスといった、お薬だけでは届きにくい側面に働きかけるアプローチです。このページでは、潰瘍性大腸炎に対する鍼灸の考え方と、研究で報告されているエビデンス、実際の治療例をご紹介します。

潰瘍性大腸炎とは?

潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に慢性的な炎症が生じる炎症性腸疾患(IBD)の一種で、主に直腸から始まり、連続的に大腸全体に広がることがあります。主な症状には、血便、下痢、腹痛、発熱、体重減少などがあり、症状の程度や範囲により分類されます。UCは自己免疫反応や遺伝的要因、環境要因が複雑に関与して発症すると考えられています。

潰瘍性大腸炎の標準的な治療

UCの治療は、症状の重症度や炎症の範囲に応じて段階的に行われます。主な治療法には以下のようなものがあります。

①5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤
軽度から中等度のUCに対して、抗炎症作用を持つ5-ASA製剤(例:メサラジン)が第一選択薬として使用されます。経口薬や坐薬、注腸剤など、炎症の部位に応じた投与方法が選択されます。

②コルチコステロイド
中等度から重度の活動期UCに対して、プレドニゾロンなどのステロイド剤が使用されます。短期間での炎症抑制効果が期待されますが、長期使用による副作用のリスクがあるため、寛解導入後は速やかに減量・中止が検討されます。

③免疫調節薬・生物学的製剤
5-ASA製剤やステロイドで効果が不十分な場合、アザチオプリンや6-メルカプトプリンなどの免疫調節薬、またはインフリキシマブやアダリムマブなどの抗TNF-α抗体製剤が使用されます。これらは免疫反応を調整し、炎症を抑制することを目的としています。

④手術療法
薬物療法で効果が得られない重症例や、合併症(例:中毒性巨大結腸症、穿孔、癌化)が生じた場合、外科的に大腸を切除する手術が検討されます。手術により症状の根治が期待されますが、生活の質や合併症のリスクも考慮する必要があります。

潰瘍性大腸炎になぜ鍼灸が効くのか?

近年、鍼灸療法がUCの補完的治療法として注目されています。その理由は以下のような生理学的メカニズムに基づいています。

自律神経系の調整
鍼灸刺激は、自律神経系のバランスを整える作用があり、特に副交感神経の活性化を促進します。これにより、腸管の運動や分泌が正常化し、炎症の軽減や症状の緩和が期待されます。

炎症性サイトカインの抑制
鍼灸療法は、炎症を促進するサイトカイン(例:TNF-α、IL-6)の産生を抑制する効果が報告されています。これにより、腸粘膜の炎症反応が軽減される可能性があります。

免疫系の調整
鍼灸は、免疫系の過剰な反応を抑制し、免疫の恒常性を維持する働きがあります。これにより、自己免疫反応が関与するUCの症状改善が期待されます。

ストレス緩和とQOLの向上
UCの症状はストレスによって悪化することが知られています。鍼灸療法は、リラクゼーション効果や睡眠の質の改善を通じて、ストレスの軽減に寄与し、患者の生活の質(QOL)向上に貢献します

潰瘍性大腸炎の鍼灸治療に関するエビデンス

対象試験数と参加者数: 13件のランダム化比較試験(RCT)、計1,030人のUC患者が対象。

比較内容: 鍼灸単独または鍼灸と従来の薬物療法(例:メサラジン)との併用 vs. 従来の薬物療法単独。

主要な成果:
・鍼灸とメサラジンの併用は、メサラジン単独と比較して、臨床症状の改善、内視鏡所見の改善、便検査結果の改善において優れていた(リスク比 [RR] 1.25、95%信頼区間 [CI] 1.19–1.41;232人;4試験;エビデンスの質:低)。
・鍼灸単独は、メトロニダゾールとスルファサラジンの併用療法と比較して、臨床効果が高かった(RR 1.21、95% CI 1.10–1.34;318人;3試験;エビデンスの質:中等度)
・副作用の発生率に有意な差は認められなかった。

参照リンク
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7560249/
https://bmccomplementmedtherapies.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12906-020-03101-4/

治療例:40代男性・潰瘍性大腸炎歴10年

主訴:
血便・下痢(1日4〜5回)
腹痛・膨満感
疲労感・不安感
睡眠の質の低下

西洋医学的治療歴:
メサラジン(5-ASA)継続服用
プレドニゾロンは過去に使用歴あり(副作用で中止)
生物学的製剤は未使用

鍼灸治療のアプローチ
自律神経の調整
潰瘍性大腸炎は交感神経優位によって再燃しやすくなることが多いため、副交感神経を優位に導くことが重要。

ツボ:
百会(ひゃくえ)、神門(しんもん)、内関(ないかん):ストレス緩和・自律神経調整
天枢(てんすう)、中脘(ちゅうかん):消化器系の働きを整える

腸管周囲の血流改善と過緊張の緩和
腹部の血流と筋緊張を調整することで、炎症による不快感や蠕動異常を緩和。

ツボ:
足三里(あしさんり)、陰陵泉(いんりょうせん):消化器全体の調整
気海(きかい)、関元兪(かんげん)、大腸兪(だいちょうゆ):腹部のエネルギー循環と免疫活性化

ストレス・不安へのアプローチ
UCは心理的ストレスによって悪化しやすいため、鍼灸によって情動の安定を図る。

ツボ:
耳鍼(交感・副腎・心):交感神経ブロック・副腎皮質刺激
督脈(背中)ラインの灸:リラックス促進・深部体温上昇

治療結果(週1回の治療、2ヶ月後)
下痢の頻度:1日2回に減少
血便:ほぼ消失
腹部症状の訴え:軽減
睡眠:夜間中途覚醒の頻度が3回→1回へ
気分の落ち込み:軽快、仕事復帰に前向き

潰瘍性大腸炎に用いるお灸・鍼のツボはどこですか?

お腹の「天枢(てんすう)」「関元(かんげん)」、足の「足三里(あしさんり)」などを、その方の状態に合わせて用います。潰瘍性大腸炎は自律神経や免疫の乱れが背景にあるため、お腹まわりだけでなく全身のバランスを診てツボを選ぶことが大切です。ツボの位置や本数は体質・症状によって一人ひとり変わります。

潰瘍性大腸炎で禁忌(やってはいけないこと)は何ですか?

一般に、活動期(強い炎症で出血や発熱がある時期)に腹部を強く揉む・押す・温めすぎるといった刺激は避けるべきとされています。当院では炎症の強い時期には腹部への強刺激を控え、負担の少ない方法で自律神経や全身の調整を優先します。また、鍼灸は標準的な薬物療法(メサラジン・ステロイド・生物学的製剤など)を中断するものではありません。主治医の治療を続けながら、補完的に受けていただくのが基本です。ただ、もし何かご事情があって鍼灸を検討している場合は問診の際にお伝えください。それに応じて施術していきます。

鍼治療をしてはいけない人はいますか?

出血傾向を強める薬を服用中の方、重い感染症や高熱がある方、妊娠中の方などは、事前に必ずお申し出ください。状態によっては施術部位や方法を調整します。潰瘍性大腸炎で通院中・服薬中であること自体は、鍼灸を受けられない理由にはなりませんのでご安心ください。ご不安があれば、初診時にお体の状態を伺ったうえで無理のない範囲から始めます。

保険は使えますか?費用はどのくらいですか?

潰瘍性大腸炎に対する鍼灸は、原則として自費診療になります。料金の詳細は治療内容・料金のページをご覧ください。

どのくらいの頻度・期間、通えばよいですか?効果が出るまでの目安は?

状態によりますが、はじめは週1回程度を目安に、体の変化を見ながら間隔を調整していくことが多いです。慢性的な経過をたどる疾患のため、数回で劇的に、というより、継続する中で再燃しにくい状態を目指していきます。目安や見通しは初診時にお体を拝見したうえでお伝えします。効果の現れ方には個人差があります。

鍼灸に関する論文・エビデンスはありますか?

あります。潰瘍性大腸炎に対する鍼灸の複数のランダム化比較試験(RCT)をまとめたメタ解析では、標準治療に鍼灸を併用した群で症状スコアや寛解率の改善が報告されています。本ページ内でその概要と出典を紹介しています。ただし研究の質や対象にはばらつきがあり、鍼灸は薬物療法を置き換えるものではなく、あくまで併用(補完)という位置づけです。

まとめ

潰瘍性大腸炎は、標準的な薬物療法に加えて、鍼灸療法などの補完的治療法を組み合わせることで、症状の緩和や生活の質の向上が期待されます。鍼灸は、自律神経系や免疫系の調整、炎症の抑制、ストレスの軽減など、多面的な作用を通じて潰瘍性大腸炎の改善に寄与する可能性があります。

つらい症状や再燃への不安を一人で抱えている方は、ぜひ一度ご相談ください。

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