鍼灸はいつ頃、どこで始まったのですか?
これはたまに患者さんからいただく質問です。
たしかに針で刺したり、灸で熱くしたりするというシンプルだけれども効果の高い鍼灸治療。検査機器もない時代に発見するなんて本当に不思議ですよね。発祥の地は中国なのですが、だれが初めに針を打ったのかはわかっていません。
ただ最古の鍼灸典籍によって、鍼灸がおおよそいつ頃に始まったのかを類推することができると思います。
中国最古の医書は今からおよそ2200年前(紀元前186年)の墓から出土した馬王堆漢墓(まおうたいかんぼ)医書というものです。
つまり2200年前に医書として発見されているということから、少なくともそこから数十年以上前には鍼灸治療が始まっていたと見て良いのではないでしょうか?
馬王堆漢墓は中国湖南省にある1972年から74年にかけて発掘調査されたもので、前漢初期に活躍した政治家、利蒼(『史記』)とその妻子を葬る墓です。
そこでは医書だけでなく工芸品、薬草、農畜産品、歴史学・考古学・文学・哲学・神話学・音楽・医学・農学・天文学に関わる資料など3000点もの副葬品が収められていました。医術に限らず、中国古代の社会生活全般を知る上で一級の遺跡とされています。
ちなみに古代医学書としては14種が出土しております。重要な人物の墓の副葬品であったことから当時の予防医学や治療法、健康法の集大成だったのではないでしょうか?
医書としては下記の14種が発掘されました。
・『足臂(そくひ)十一脈灸経』・・・経穴(ツボ)がどこに存在しているのかを記したもの
・『陰陽十一脈灸経』・・・同上
・『脈方』・・・脈の強さ速さ、硬さ太さ、浮き沈みを把握することで病態を把握する方法
・『陰陽脈死候』
・『五十二病方』・・・具体的な病名に対して鍼灸、按摩、薬草、手術などの処方が記されている。
・『養生図』
・『雑療方』
・『胎産書』・・・胎児の成長や妊婦の養生法、男女の産み分け法が記されている。
・『却穀食気』・・・穀物を避け気を食らう、気功法が記されている。
・『導引図』・・・今でいう体操や運動療法、気功に類するものが記されている。
・『十問』・・・問答形式の房中(性交)・長生術の手引書
・『天下至道談』・・・具体的な房中術が記されている。
・『合陰陽方』・・・同上。
・『雑禁方』・・・呪術的医療行為が記されている。