当院が大事にしていること

私が患者さんと向き合うにあたって重視していることがいくつかあります。

鍼灸治療と一言で言ってしまうと世の中に溢れている治療院と何が違うのかさっぱりわからないと思います。ですのでなるべく当院のスタンスや想いを言葉にしておきたいと思います。

◉じっくりとお話を聞く

これは当然のことなのですが、医療の現場に最も欠けていることです。

まず患者さんと向き合った際に大切なのが、針や灸、按摩などではありません。患者さんが今どんなことに困っているのか、まずはそこです。そして過去にどんな症状や出来事があったのかをヒアリングしていきます。痛いのか不快なのか、それとも言葉に表現できないような症状なのか、いつからなのか、何時頃症状が強まるのか、ストレスは自覚しているか、どんなストレスなのか、どんな感情が強まるのか(不安、焦り、恐怖、怒り、イライラ)、どんな幼少期を過ごしたか、幼少期の慢性的な症状は何か、自覚している考え方のくせはあるか、、

とにかくお一人お一人で聞かなければならないことは多岐にわたります。

特に現代社会は非常に複雑です。意識的に制限しなければ、考えること、することが際限なく広がり、心身は疲れきってしまうのです。だからこそ真面目な人が病みやすいのだと思います。治療していく中でお話を聞いて一つ一つ紐解いていく作業が必要になるのです。

ただの寝違えや慢性腰痛で来た患者さんにも念のためお仕事や人間関係のことなどを確認することがあります。

患者さんの側でも鍼灸院というと体の痛みを取る場所という先入観を持っています。それ自体は間違いではないのですが、鍼灸だけで根本的に改善できない症状なども存在するのも事実です。例えば体の痛みや不定愁訴は慢性的な精神的ストレスがきっかけで起きることもあります。。

そう考えると鍼灸院が「人の痛みを取る場所」であるならば、鍼灸治療だけでは完全ではありませんね。

だから私は問診時や施術中に患者さんから色々なお話を聞かせていただくのです。

◉東洋医学の難解な言葉を使いません

東洋医学というと気だとか五臓六腑、陰陽五行思想など、わかりにくい言葉がたくさん出て来ます。患者さんも感覚でなんとなくわかるのですが、やっぱりベースの知識がないと正しく理解することは難しいのです。ご本人が体の状態を理解できないということは、ご自身の判断でセルフケアができなくなってしまうということです。

ですので私は患者さんとの会話の中で共通認識のない言葉は極力使わないようにしています。できる限り患者さんの中に存在する言葉を使って患者さんの今の病態を説明して治療をしていきます。例えば、脳、筋肉、神経、血管、血流、感覚、ホルモン、免疫など誰の頭にもイメージとして存在している言葉です。そうすることで患者さんが日常生活の中でしたほうがいいこと、やめたほうがいいこと、運動の種類・量、食べ物などをご自身の判断で調整していけるようにもなるのです。

治療というものは結果を出すことも当然大事なのですが、それだけを出せば全て良いというわけではありません。

ある症状が発生したプロセス(仮説)と原因を説明して理解していただくことが患者さんの治癒にとって非常に大切なのです。

◉鍼灸治療だけに限定しない

私は治療院においては鍼灸治療を中心に治療しています。鍼灸が最も痛みや不快な症状を取るのに適しているとわかっているからです。ただし鍼灸が最も守備範囲が広く効果的なことは確かなのですが、病態によっては運動療法や認知行動療法などのカウンセリング要素のある問診が必要であったりすることもたまにあります。その場合は適切な運動をお願いすることもありますし、治療中のお話がカウンセリング要素を含んだものになることもあります。

また稀にですが鍼灸ではなくマッサージや古法按摩、整体だけで治療することもあります。

そして場合によっては整形外科や脳神経外科、循環器科、婦人科などの受診を念のためお勧めすることもあります。

それは全て患者さんのお身体の安全や治癒を中心に考えているからです。

鍼灸治療は事実として数千年の歴史がありますし、現代医学的にその驚くべき効果が解明されてきている部分もあります。しかし鍼灸だけで現代の複雑な病理で起きる症状や疾患を解決できない場合もあるのです。

ですので鍼灸だけでなく他の検査や治療が必要だと感じた時には、その理由を含めて患者さんにしっかりと説明するようにしています。

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◉患者さんを取り巻くご家族や生活全体に貢献したい

強い慢性疾患をお持ちの方なら実体験としてよくわかると思いますが、ある病気や症状の影響というのはその患者さんだけには止まりません。必ず心配するご家族や恋人、友人の存在があります。そして場合によっては症状が何年も治らないためご家族全体が病んでいってしまうというケースもあるのです。例えば子育て中のお母さんが病んでしまったとしましょう。そうなるとご家族の誰かがサポートに入ります。そしてその方は普段以上の苦労をするので心身の疲れがどんどんたまりますよね。もちろん患者さんご本人も子育てがしたくてもできないという辛さや周りに迷惑をかけていることに強いストレスを感じます。そして治癒しにくくなってしまうという悪循環になります。

また子供のいるご家族のお父さんが病んでしまった場合も同じですね。ご家族みんなが心配して意気消沈してしまうこともあると思いますし、計画していた旅行やお父さんとの楽しい時間がなくなってしまうこともあると思います。そのようなことが長期化するとご家族全体の心身が疲れていってしまいます。他にご家族に何らかの症状が起きてしまうこともあると思います。

何より患者さんご自身の人生の質が低下してしまいます。仕事のパフォーマンスは落ちてしまいます。好きなスポーツや楽器演奏、読書などの趣味をやる気にもならなくなってしまう人もたくさんいます。

なので私はご本人が仕事や趣味にいきいきと取り組んでいただくこと、そして患者さんを取り巻くご家族を健康な状態にすること、そのことをイメージして治療しています。