東洋医学に欠けていること。

東洋医学は完全ではありません。

私は鍼灸治療の優れた効果を日々実感しています。

鍼灸や漢方などの東洋医学は悠久の時間の中で人々を観察し、治療し、体系化した経験医学です。その経験医学の真意を読み取り実践に活かして適切な治療をすることで高い効果が得られるのです。

私も鍼灸臨床に携わる中で、病院で異常がないと言われたのに慢性的な愁訴に悩んでいる方、病院の投薬治療や手術で症状が全く軽減しない方が鍼灸治療で劇的に改善していく姿を日々見ています。ただ、その一方で西洋医学だけでなく、東洋医学に足りないと感じていることがあるのです。それは患者さんを「唯一無二の一人の存在」として捉える姿勢です。東洋医学には数え切れないほどの病態(証)があります。例えば頭痛が起きたとしましょう。現代医学的に同じ種類の頭痛でも東洋医学的には10種類以上のタイプがあり、それぞれ治療方法が異なってくるのです(同病異治)。ただタイプがたくさんあっても個人個人を一人の病態として捉えているとは言えません。

本来患者さんは一人に一つの心や体の個性を持ち、人生観、感受性、親子関係、友人関係、仕事、趣味、既往歴、など皆それぞれ微妙に違うものです。だからこそ難しい症状や疾患を発症した時には、その症状を引き起こした個別の原因は何なのか?を具体的に把握する必要があります。近年これだけ病気と社会的ストレスの関係が叫ばれているのに、心や体の個性や特性、具体的なストレスの内容などを把握しないで症状が改善するのでしょうか?西洋医学であれ、東洋医学であれ症候群や「証」といったタイプに当てはめて解決策を出せるのでしょうか?

東洋医学の古典は無数にあるのですが、どんな古典を読んでも患者さんの心の状況や過去の体験を詳しくヒアリングしたりするような記載はありません。これだけ長い歴史がある医療体系になぜその重要性が記載されていないのでしょうか。恐らく2000年前の人にも今と同じように同僚や家族との人間関係の中でのストレスはあったはずなのです。もちろん東洋医学の診察には四診(ししん)と呼ばれる望(視診)、聞(音を聞く、匂いをかぐ)、問(問診)、切(触診)、があります。西洋医学にはない非常に細やかな診察であることは間違いありません。

そもそも東洋医学というのは肝・心・脾・肺・腎・心包などの名前のつけられた身体をめぐる経絡(ツボがあるライン)の気が乱れることで病が起きると考えています。そして気の乱れを起こした原因について内因・外因・不内外因というものがあります。内因とは「怒・喜・思・憂・悲・恐・驚」などの心の乱れ。外因とは「風・暑・湿・燥・寒」などの外的自然環境の変化、不内外因とは飲食不節、過労、外傷などになります。

個別の状況を捉える上で大切なのは内因の部分になるのですが、今どの感情が強く出やすい状況なのかということも大切ですが、それ以上になぜその感情が起きて病を発症するほどのストレスになってしまったのかという点はさらに大事なことです。このことは治療に役立つだけでなく、今後の予防にも非常に重要な要素だと思っています。

私は現代医学的・東洋医学双方の観点で体を診て、抜け漏れのない病態把握を心がけております。それは医療者として必須です。それに加えて患者さんを一人の人としてしっかりと把握することを最も重要視しています。それがあって初めて根本治療と言えるのだと思っています。

治療をきっかけとして、患者さんが持つ個性の中で心と身体を最高の状態にして自然治癒力を発揮させるのが根本治療の本質だと考えています。そのためには近道はありません。しっかりと患者さん個人個人を把握し、1人に1つの治療を施すのみです。

※当院の治療の流れはこちらです。