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自律神経とは何か?
よくテレビや本などで自律神経という言葉を耳にしますし、日常的にも「自律神経が乱れている」「医者から自律神経失調症と言われた」など体の状態を言う言葉として頻繁に登場することが多くなったのではないでしょうか。私も日々鍼灸、指圧、マッサージなどの治療をしていく中で自律神経という言葉を使って患者さんに説明することも非常に多いです。
でもそもそも自律神経ってなんなのでしょうか?
人間の体というのは自分の意志で動かせることと、意志では動かせないことの二つがありますね。たとえば「手をあげる」という動作は意志でできますが、消化機能を強めたり、弱めたりすることは自分の意志ではほぼ不可能だと思います。
自分の意志で動かすための神経を「運動神経」、
内臓や皮膚など自分の意志ではなく脳が自動で動かすための神経を「自律神経」と言います。
全ての体の動きの出発点は脳(脊髄)にあり、脳から命令が出て体に張り巡らされた自律神経という通路をたどって胃、小腸、膀胱、眼球、皮膚などに命令が伝わり活動がコントロールされるのです。でもなぜ体の中に自動化された器官があるのでしょうか?全て自分の意志で動かせたほうがいいと考える人もいるのではないでしょうか?でもよく考えてみてください。消化や発汗、瞳孔の大きさなどを自分の意志でやっていたら大変じゃないですか?食べ物が入ってきたら自分の意志で「さあ唾液をだすぞ。たべものを胃に送り込むぞ。胃で消化酵素を出しながら胃を動かして、次は12指腸に送るぞ(笑)」、考えただけでも大変ですね。
自律神経というのは人間が生きていく上で誰にも共通するような日常的な体の動きを自動化してくれているのです。自律神経系があるからこそ熱い時には勝手に汗が出ますし、食べれば消化・吸収され、暗いところに行けば瞳孔が開くわけです。
まとめると自律神経というのは無意識に活動する内臓などの機能を自動的(自律的)コントロールするために脳と各器官(内臓)を結ぶ伝達経路だということです。
そして自律神経には二つの種類がありますので、それを見ていきましょう。
交感神経と副交感神経
さて体を自動的に動かすために自律神経がありますが、大きくわけて次の二つの種類に分かれます。人間の体というのは精巧にできていて日常の中の二つの局面に対して違う神経を使っています。それが交感神経と副交感神経と言われるものです。
ではそれぞれはどのような局面で使われるのでしょうか?
交感神経・・・・活動するとき。主に日中優位になる。闘争か逃走か(fight or flight)と表現されます。
副交感神経・・・休息するとき。主に夜間に優位になる。安静と消化(rest and digest)と表現されます。
古代から人間の体というのはほとんど変わっていないのですが、それは自律神経も同じです。古代には大きく分けて狩猟・採集などの「活動的な場面」と疲れたら休むというような「休息的な場面」で成り立っていたと思います。そして自律神経はそれぞれの場面に応じてどちらかの神経を優位にさせて体を場面に応じた状態にコントロールしているのです。
例えば突然ライオンなどに遭遇した場合には、交感神経の働きが一瞬にして優位になり副交感神経は低下します。体が「戦うか?逃げるか?」どちらにも適した状態になるのです。具体的には心拍が活発になり、血管が収縮し末端に血液がすばやく流れ、気管支は拡張し酸素をたくさん取り入れることができるようになります。手に汗をかくことで道具を持っても滑らなくなります。また瞳孔が開くことで明るさをより多く取り入れ相手をよく見ることができます。
逆にライオンなどの敵がいなくなって、戦ったり逃げたりする必要がなくなれば今度は副交感神経の出番です。敵がいる時や活発に活動している時にはできないような体の機能を活発にさせるのです。消化器系や泌尿器系が活発になり代謝が高まります。そして血管は弛み、心拍数も低下していきます。
現代社会には狩猟などはありませんが、「狩猟・採集=お金を稼ぐ=お仕事」という言い換えができますし、ある意味職場は闘争の場だと捉えることもできるのではないでしょうか?
人間というのは「活動的で、興奮している場面」と「休息して、リラックスしている場面」の二つの相反する場面に合わせて自動的に体を適切な状態に合わせることができるのです。
交感神経、副交感神経それぞれに対応した体の反応は下の表のとおりです。
日常の中に当てはめてみて納得できることも多いのではないでしょうか?
器官 | 交感神経 | 副交感神経 |
瞳孔 | 大きくなる | 小さくなる |
唾液腺 | 濃い唾液 | 薄い唾液 |
気管支 | 拡張 | 収縮 |
気道分泌 | 低下 | 上昇 |
血圧 | 上昇 | 低下 |
心拍数 | 上昇 | 低下 |
肝臓 | 栄養分解(エネルギーを作る) | 栄養蓄積 |
消化管 | 活動低下 | 活動上昇 |
皮膚血管 | 収縮 | − |
汗腺 | 発汗上昇 | − |
立毛筋 | 収縮 | − |
膀胱 | 活動低下 | 活動上昇 |
参考までに自律神経には3つ大きな特徴があります。
(1)自律支配
無意識的に内臓や皮膚、血管などの器官をコントロールしている。
(2)二重支配
一つの器官は交感神経と副交感神経の両方にコントロールされている。
※血管、汗腺、立毛筋は例外的に交感神経のみによって支配されています。
(3)拮抗支配
一つの器官を支配する交感神経と副交感神経の働きは対立している。
※例えば交感神経が優位になると胃腸の働きは低下しますが、副交感神経が優位になると胃腸の働きは上昇します。
自律神経が乱れるとどうなるのか?
よく「自律神経が乱れる」という言葉を耳にしますよね。
これはどういうことかと言うと今までご説明してきたような交感・副交感それぞれの神経の機能がうまく作動しなくなる状態を言います。通常自律神経というのは一日の中で交感・副交感をシーソーのように行ったりきたりして、一方が上がれば他方が下がるというように場に応じて調整しています。それがスムースにいかない状況を「自律神経の乱れ」と表現しています。日々鍼灸治療を実践していく中で多く目にする乱れのタイプは「交感神経優位タイプ」です。本来交感神経は日中の活動時にのみ優位になっていて夜間には低下していきます。それと同時にシーソーのように副交感神経が優位になってきて体は休息と睡眠の準備に入ります。しかし夜になっても体全体や目が冴えてしまってリラックスできない、なかなか寝付けない、便秘傾向、人によっては頭痛や腰背部(肩こり、背中の痛み、腰痛)などを自覚する人も多いです。このように交感神経優位の方向へ針が振れたっきりの状態で副交感神経の方向に体が戻らないタイプです。このあたりの原因や対処法については別の記事で紹介いたします。
もうひとつ交感神経が優位になったときの特徴的な現象としては顎・頸(首)・肩・背中・臀部(お尻)の筋肉が緊張状態になることがあります。前述したように交感神経というのは戦ったり逃げたりするときに働く神経です。なのですぐに動いたり攻撃(噛む)できる準備として筋緊張を起こすのです。それが今でも長期に続き精神的ストレス時に症状として出てしまう理由です。
(関連記事:顎関節症の患者さん)
交感神経・副交感神経というのはどちらも人間には必要な神経です。活発に動くべき時、休むべき時、両方とも大切ですよね。大事なことは場面に応じて自律神経がうまく切り替わってくれることなのです。程度の差はありますが自律神経が乱れている方が本当に多いと思います。酷い人になると電車などに乗っていても乱れていることがわかる人がいます。
自律神経の乱れを治す鍼灸治療
鍼灸臨床の中で患者さんと向き合っていると、愁訴(辛いこと)が自律神経の乱れに由来すると感じられることが本当に多いんです。患者さんの多くが程度の差こそあれ自律神経を慢性的に乱してしまっています。症状一つ一つとしては地味なのですが慢性化すると非常に辛いものです。またいろいろな症状を呈しているため病院の色々な科に行って薬を処方されても体の不快感が取れない。そんな方が増えているように思います。
でも鍼灸治療、食事やワークスタイルなどのライフスタイルを見直すこと、人によっては人との接し方や感じ方を少し変えるだけで、自律神経系はもとの状態をゆっくりと取り戻していきます。
私は鍼灸、マッサージ、指圧、あん摩、カイロプラクティック、整体などそれぞれ一定の治療をすることができ法的に開業する資格も持っています。その中でなぜ鍼灸院を開業していると思いますか? それは数ある治療手段の中で鍼灸治療こそが患者さんの症状の元になっている自律神経やホルモン、免疫系の乱れを改善することができるからなのです。ご自身の自覚として自律神経が乱れているかな?と思われた方にはぜひ腕の立つ鍼灸師に治療を受けていただきたいです。
※マッサージや整体も体の状況に応じて自律神経のバランスを整えるために施すことがあります。これはケースバイケースです。
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