腰痛には圧倒的に針治療が効きます。マッサージや整体はすぐに痛みが戻ります。
目次
腰痛について
まず腰痛は急性腰痛(ぎっくり腰)と慢性腰痛に分類できます。
こちらの記事で紹介する腰痛は慢性腰痛です。急性腰痛については別記事で既に紹介してありますのでそちらをご確認ください。急性腰痛については基本的に1回で7割の痛みが取れることがほとんどです。(関連記事:急性腰痛、ぎっくり腰は1回で治す)
急性腰痛についても同じことですが病院に行っても湿布と痛み止めを処方されるのみで、有効な処置を受けることができないケースがほとんどです。
この記事では臨床上見かけるほぼ全てのタイプの腰痛を網羅的に紹介しています。そして不適応症として紹介した症状や疾患以外の腰痛に対しては針治療が最も効果的かつ短期間で治るケースがほとんどです。もちろん施術者の腕が劣っていては難しいですが。
私はマッサージも整体もできるのですが多くの治療に針治療を用いています。数ある治療の中でも最も即効性があり痛みが戻りにくいからなのです。
まずはご自身の腰痛がどのタイプに当たるのかご覧になってみてください。
腰痛の種類と原因
腰部の痛みを生じる疾患には筋肉性のものから内臓由来のものまで様々なケースがあります。下記にあげるタイプの腰痛は仮にマッサージや整体などで何年も治らなくても針治療ではレベルの違う改善をするケースがほとんどです。
◉筋筋膜性の腰痛
整形外科やペインクリニックで思うように治らなかったり、脊柱管狭窄症や坐骨神経痛、腰椎椎間板ヘルニアなどと診断されていたとしても痛みの原因がそれらの疾患からきているケースはごく稀な場合が多いと感じます。ほとんどの痛みの原因は筋肉が緊張したことで、それを覆う筋膜や腱にある痛覚が刺激されて生じます。その場合、原因となる筋肉や腱自体の痛みと共に離れた場所を痛みを放散させているケースがしばしば見られます。そもそも筋筋膜性疼痛とは何かというお話はこちらの記事に記載してあります。(関連記事:筋・筋膜性疼痛症候群(MPS))
日々治療をする中で「背骨が痛いのですが。。」と訴える患者さんがおられます。その場合でも痛いのは大概筋膜や腱によるもので骨の損傷による痛みではありません。もちろんそのようにおっしゃられるお気持ちはよくわかります。確かに骨に何か問題がありそうな痛み方をするからです。もちろん微細な骨折による痛みかどうかはもちろん検査した上で治療をして行きますが。
腰部の筋・筋膜性疼痛を生じるのは下記の5パターンで95%以上カバーできると思います。
・腰方形筋、腸肋筋の腰痛
この筋肉が痛い場合は腰骨の中心線から7〜10cm程度両側にある筋肉がくぼんだ部分をご自身の親指で腰骨の方にぐいっと押した時に痛みや痛気持ちよさを感じます。また上体を左右へ側屈することで痛みが誘発される場合もあります。人によっては押した時に硬い筋のようなものにぶつかる人もいると思います。それは筋肉が過緊張を起こして硬くなっているもので骨や靭帯などではありません。鍼灸で治るとなくなってしまいます。
腰方形筋
腸肋筋
・多裂筋
この筋肉による腰痛の場合、指で痛い筋肉を触ることができないためご自身で腰のあちこちを指で触っていただいても痛みの部位をうまく指し示すことができない場合がほとんどです。(ワンフィンガーテスト)しかし指し示せないこと自体が痛んでいる筋肉が深層にあることを示唆しているため重要なヒントになります。この筋肉は上体を痛い側に側屈させたり、痛い側とは反対に背骨を中心にして回旋させる時に使う筋肉なので、そのような動作をした時に痛みが強まる傾向にあります。この筋肉は背骨の際1.5cmぐらいの深層にあるためマッサージや整体ではまず治すことはできないか無駄に長引きます。針であれば早くて1回で大幅に改善するケースも稀ではありません。
多裂筋
・大腰筋の腰痛
下の図を見ていただいてもわかるようにこの筋肉は背骨の横から骨盤の中を通って大腿骨(足の骨)の上部に付着する非常に大きな筋肉です。体幹を支えたり、前かがみ姿勢を維持する時に無意識に緊張度をあげているのです。この筋膜による痛みの場合も患者さんの指で痛い場所を指し示してくださいとお願いしても特定することができません。確かに腰の左右中央部分に鈍い痛みがあるのですが場所を限定することができないのです。腰ではなく股関節の前面のピンポイントに痛みを示せるケースがあります。それはこの筋肉が股関節の前面の体表に出てきているからです。図を見るとよくわかると思います。
顔を洗ったり、食器を洗うときのような前かがみ姿勢をとっていただくと痛みが増強するのもポイントです。ちなみにこの筋肉はぎっくり腰を起こす代表的な筋肉になります。そもそもぎっくり腰を起こす患者さんはこの筋肉に痛みを常日頃から抱えているのですが通っている整体院、整骨院、鍼灸院がこの筋肉を見逃しているため徐々に悪化していき、ほんのちょっとした動作が引き金となってぎっくり腰を発症します。
ですのでここの部位に緊張と鈍痛がある人は早めに緩める処置をしないといつかぎっくり腰になってしまったり、ぎっくり腰を繰り返したりするのです。
また横から見た図を見ていただくとわかると思いますが、この筋肉が異常緊張すると腰骨を前方に引っ張ります。そして引っ張ることで椎間板の前側が潰されます。椎間板の前側が潰されると椎間板は後ろ側にヘルニアを出し腰や足に痛みを発生させるケースもあります。
・最長筋の腰痛
この筋肉が痛むタイプの腰痛の場合、痛い場所をご自身の指で押して示すことができます。(ワンフィンガーテスト)また、前かがみ姿勢で痛みが誘発されることが比較的多いと思います。
・腰背腱膜の腰痛
下図の腰部中央、菱形の白い部分が腰背腱膜です。これは筋肉ではなく背中から腰にかけて様々な筋肉を覆う膜で、他の筋膜などと癒着して痛みを発することがたまにあります。多くは菱形の下部である仙骨部に発生することが多いように感じます。
◉椎間板ヘルニア
これは非常に有名な病態で、ヘルニアの診断を受けたことのある方も多いと思います。ただ整形外科でこの診断を受けても、ヘルニア自体が痛みの直接的原因でない場合もしばしば見られます。
ヘルニアは腰椎の前傾によって脊椎の間のクッションである髄核が腰椎の後方(背中側)に飛び出すことで発生します。神経根を圧迫することが多く、腰部だけでなくお尻、太もも、膝、すね、足首などに耐え難い痛みを発生させることが多くあります。これはいわゆる坐骨神経痛と呼ばれる病態です。(関連記事:坐骨神経痛)
ヘルニアが後方に飛び出る原因はいくつか考えられますが最も多いと感じるのは前述した大腰筋の過緊張により腰椎が前方に傾斜するためです。前方に傾斜すると椎間板の前部が潰されます。前方が潰されたことで後方の圧が高まり破裂して飛び出してしまうのです。
◉椎間関節性腰痛
椎間関節に滑膜と言われる関節を構成する柔らかい組織が挟まれることにより炎症が起きて痛みを発する。稀にこのタイプのぎっくり腰も発生する。
◉椎間板性腰痛
これは比較的新しい概念で、前屈時や重いものを持った瞬間、椎間板の内圧が瞬間的に高まり、元々から変形していた椎間板(椎間板繊維輪)に亀裂が入る。これにより椎間板に付着している脊椎洞神経(脊髄神経硬膜枝)を刺激することで痛みが発生する。この病態も頻度としては稀であると思われます。
◉臀部痛(お尻の痛み)
これは厳密に言うと腰痛ではなく臀部痛(お尻の痛み)なのですが、腰が痛いと訴えて来られる方の中に比較的多くこの病態の方がおられるのも事実です。痛みが発生する原因は下図の中臀筋や小臀筋と言われる臀部の深層にある筋肉が緊張する筋膜性の疼痛です。また臀部の緊張であるのに臀部だけではなく腰部に痛みを放散することがしばしばあります。これは比較的多い病態です。腰部の筋肉の問題と同時に発生していることもあります。
◉瘀血性の腰痛
瘀血(おけつ)とは本来、血が滞って流れないと言う意味の東洋医学的な概念なのです。現代医学的な言い方をすれば腰部の循環障害と言うことになります。腰部の動作に対して腰部の静脈には様々な圧がかかります。腰部周辺の過緊張した筋肉などに圧迫されて部分的に循環障害を起こしていることがあり、その部分に発痛物質が溜まって痛みが出ます。この場合、腰部に細絡と呼ばれる青紫色の静脈が体表に浮き出ています。その有無でこの病態を判断します。
腰痛に効果のある治療
腰痛に最も効果的な治療は間違いなく腕のある鍼灸師による鍼灸治療でしょう。おそらく皆様の周囲でも万年腰痛で悩んでいた方が数回の針治療で著しく改善したなどの例を聞いたことがあるかもしれません。マッサージや整体は施術中はそれなりに気持ちがいいかもしれませんが、腰痛の根本的な治療になることはありません。私はマッサージの国家資格を持っていますが腰痛の治療にマッサージ、指圧、整体などは絶対に使いません。その場しのぎの治療にしかならないのをよくわかっているからです。
ではなぜ針治療が腰痛に著しく効くのでしょうか?それは前述した腰痛の病態のほとんどが筋肉の過緊張や過収縮それ自体によって起こっていたり、筋肉の過緊張によってヘルニアを発生させたりするからです。針治療が最も筋肉の緊張をやらわげる効果があることは他の記事で述べましたのでそちらを参考にしていただければ幸いです。(関連記事:なぜ針治療でコリがほぐれるのか?)
つまり鍼灸の治療方法としては過緊張をしている筋肉を最小限の刺激量で緩めることです。痛みが発生している箇所だけでなくその元になっている筋肉やその繊維を特定し、その部位へ適切な針の太さ、長さ、針の動かし方、針を刺したまま置いておく(置鍼)時間などの要素を考慮し治療していきます。
適切な治療ができていれば10年以上も悩んでいる腰痛ですら数回の治療で改善することも珍しくはないと思います。ただ言うまでもなく治療の腕が必要です。
※この記事ではご紹介しておりませんが、腰部に痛みがでるものとして腰部脊柱管狭窄症があります。当院のご来院される方の中にはこの診断を受けた方も非常に多いのですが、実際は痛みのある周囲の筋肉の鍼灸治療をすることで痛みが消失する方もいるのです。関連記事:腰部脊柱管狭窄症
鍼灸治療不適応のケース
鍼灸治療は上記で挙げたような腰痛には非常に高い効果を出しますが、もちろん不適応の場合があります。ただ下記に挙げたような疾患の場合、問診時もしくは1回治療した段階である鍼灸が向かないことは検討がつきます。鍼灸治療をしても全く効かないか数分するとすぐに痛みが戻ってきてしまうからです。
腎盂腎炎・・・39度以上の高熱、血尿などがある場合は注意
腰椎のガン・・・この場合、腰椎を軽く叩打することで痛みが発生するため検討がつきます。
尿路結石、卵巣嚢腫、卵管炎、子宮癌、子宮筋腫、子宮内膜症
腰痛に腹筋は禁忌
まず腰痛に腹筋運動は禁忌であることがほとんどです。
多くの腰痛患者さんを問診していると整形外科や整体で「腰痛予防や腰痛を悪化させないために腹筋を鍛えてください」と言われているようです。
ですが結論から言うと決して腹筋をしてはいけません。痛めているときは特にです。そもそもなぜこんなおかしな話が世の中に出回ってしまったのでしょうか。
それは拮抗筋の作用から考えられたのかもしれません。
筋肉というは片方が縮まれば片方は緩むという拮抗関係にある筋肉があります。
たとえば上腕二頭筋に力を入れて力こぶを作って縮めれば、その裏側にある上腕三頭筋は緩みますよね。もし上腕三頭筋の力が極端に落ちてしまった場合、逆の理屈で二頭筋が常に収縮してしまうのではないか?という理論なのです。
腰が痛いというのは腰の筋肉が緊張している場合が多いのですが、このことを上の理論にあたはめれば腰の筋肉(例えば起立筋)と拮抗関係にある腹筋の筋力がなく緩んでしまっているのではないか?という仮説が成り立つのです。
このことから腰痛には腹筋を鍛えましょうという話が出てきているのだと思います。
ただ、現実的には腹筋で腰痛は治りません。なぜ治らないかというと急性腰痛、慢性腰痛問わず多くの患者さんが痛めている筋肉というのは腹筋と拮抗関係にない筋肉だからなのです。
拮抗関係にないどころか同じ働きをする筋肉を痛めているケースが多いので、腹筋を鍛えていると逆に腰痛が悪化してしますのです。
ちなみに拮抗関係の理論に合う筋肉が問題の場合はどうなのかというとやはり対抗する筋肉を鍛えても他方の筋肉は緩みません。
腰痛の方は決して無理な腹筋をしないように注意してください。
慢性腰痛における鍼灸のエビデンス
こちらのサマリーは慢性腰痛(65歳以上、症状6ヶ月以上経過)の患者35名を被験者として鍼灸の有効性を大学付属病院によってレポートしてものです。臨床上、鍼灸は非常によく効くと実感しておりますが、医療機関によってもその有効性は示されています。