「なぜ鍼灸は病気に効果を発揮するのですか?」

これまでに患者さんから幾度となく尋ねられた問いです。極めて素朴な問いなのですが、鍼灸師でも意外とこのことを知らない方が多いようです。

まず「鍼灸は自然治癒力を高めるものだ」という説明は聞いたことがあると思います。このことをもっとわかりやすく説明すると、

鍼と灸の刺激によって、患者さん自らが自分の体の不調を改善、治癒する力を高め、症状や病気を治す

ということです。

このことを詳しく説明したいと思います。

本来鍼や灸はヒトが最も避けたいこと

そもそも「トゲ(鍼)が刺さる」ことや「火(灸)による熱さ(火傷)」は自身の身体(タンパク質の組織)が変性してしまうことであり、ヒトが原始生物の時代から最も避けたいことであるはずです。それは現在の高等動物としての人間も例外ではありません。人は進化の過程でこれらの刺激を生命に対する危機として最重要の信号として捉えるようになり、考えるよりも先に反応するようになりました。

ではなぜ最も避けたいことが「治療」という全く逆のことに使われるのでしょうか?

人間には古い脳と新しい脳がある。

人間の大脳には古い脳(旧皮質、無意識的)と新しい脳(新皮質、意識的)の2つが存在します。古い脳は人間という動物が本能的にたくましく強く生きるために備わった脳です。例えば、睡眠や食欲、生殖などの機能に対して大切な役割を果たしています。

一方で新しい脳は人間が社会的な動物としてよりよく生きていくための知性や理性を司どる脳です。

人間は古い脳(本能)で生きると社会が混乱してしまうので、新しい脳によって古い脳をマネジメントしてきました。そうすることで社会や組織が円滑に秩序立って動き、またそのような社会をベースとして新しい脳によって発明や発展を成し遂げることができたのです。

しかし新しい脳は古い脳(本能や感情)を抑えることでストレスを生みだし、人間が動物としてたくましく生きる生命力を弱めてしまうという副産物を生み出してしまいました。

古い脳の一部(例えば怒りの感情)だけを抑えることができればよいのですが、実際には古い脳すべてを抑圧してしまうことで自律神経系(呼吸、睡眠、摂食、生殖機能)や免疫系など全ての機能を低下させてしまっているというわけです。

それが現代人の心身が病みやすくなってしまった根源的な問題です。

鍼灸は古い脳を活性化させる。

つまり相対的に弱くなった古い脳を活性化させて新しい脳とのバランスを取り戻すことが人間の病気を治したり、病気になりにくい身体作り(未病治)をする上で最も大切だということです。

前述したように鍼や灸は人間が最も嫌う刺激でありながら、原始生物の脳である古い脳を刺激し活性化させます。つまり古い脳が活性化するということは「病気を治し、人間としてたくましく生きる」ことそのものなのです。

鍼灸が自然治癒力をいかに高めているかをお分かりいただけたと思います。

ちなみに鍼灸は不妊や不眠、自律神経失調症、うつ病の改善などにも有効性があるのは、全てこの古い脳を活性化させるための最適な経絡や経穴(ツボ)を、その患者さんの個体差に合わせて治療するからです。

 

現代医学から見た鍼灸のメカニズム

自律神経の調整
鍼灸は交感神経と副交感神経のバランスを整える働きがあります。特にストレス社会では交感神経が優位になりがちですが、鍼刺激によって副交感神経が活性化し、リラックス状態へと導かれます。
→これは睡眠の質の向上、慢性疲労の軽減にもつながります。

内因性鎮痛物質の分泌
鍼を打つことで、脳内からエンドルフィンやセロトニンといった鎮痛・快楽物質が放出されることが知られています。これにより、痛みがやわらぐだけでなく、気分が落ち着くという効果も得られます。

血流と免疫の活性化
鍼刺激は局所の血流を促進し、またマクロファージや好中球など免疫細胞の活性にも影響を与えることが報告されています。これにより、慢性炎症や冷え、むくみなどの改善にも寄与します。

 

 東洋医学的に見る鍼灸の意味

「気・血・水」の流れを整える
東洋医学では、私たちの身体は「気(エネルギー)」「血(栄養)」「水(体液)」のバランスによって成り立っていると考えます。鍼灸は、滞った「気血水」の巡りを整え、体全体の調和をはかる療法です。

五臓六腑と経絡のバランス調整
鍼灸は「肝・心・脾・肺・腎」などの五臓六腑の働きを、経絡(けいらく)というエネルギーの流れ道を通して整えます。不眠、消化不良、月経不順などの慢性的な不調にも対応できる理由はここにあります。

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